
フロントミッドシップとはなんぞや?と思われるかもしれない。「ミッドシップ」を正確に定義すると「真ん中」ということである。最重量物であるエンジンを車体の真ん中に配置して重量配分を良くして運動性能を上げる、というのがもともとの意味である。
ところがエンジンをド真ん中にもってくることは不可能である。そんな邪魔者をド真中に置いてどこに運転席を持ってくるのか?。そこで苦肉の策(?)として運転席の後ろにエンジンを積んだものを「ミッドシップ」と一般には呼ぶ。だから本当はぜんぜんミッドシップではない(笑)。もっとも「リアエンジン」とは少し違う。リアアクスル(要するに左右の車輪をつなぐ棒)より後ろにエンジンがあるのが「リアエンジン」、リアアクスル上から気持ち前方にエンジンがあるのが「ミッドシップ」である。いわゆるスーパーカーと呼ばれるフェラーリやランボルギーニなんかはこの手のレイアウトを持っている。アメリカ車関連ではポンティアック「フィエロ」だとかデトマゾ「パンテーラ」なんかがそうだった。ただし、こういう前のめりスタイルのクルマはアメリカ人の好みには合わないようで、アメリカのメーカーはなぜか開発には消極的である。アメリカ人の好み(ということは私の好み)はなんといってもロングノーズ・ショートデッキなのだ。
そこで「フロントミッドシップ」である。エンジンは運転席より前にある。それなら普通のクルマのレイアウトと同じかというと微妙に違う。上の透視図の赤い部分がエンジンなのだが、やはりフロントアクスルの後ろに位置しているのがわかるだろう。繰り返すがアクスルとは車軸のことだった。アクセルペダルのことではないから間違わないように(笑)。Corvetteはコンパクト(全長は直4と変わらない)なV8エンジンのメリットを生かして、これを通常より後ろに下げているのである。
普通のFR車だとフロントアクスルをまたぐようにエンジンは配置されるし、エンジン横置きのFFだとアクスルより前方のオーバーハングに配置されることも珍しくない。全長が限られているところに居住性を上げるためにはエンジンルームを極力小さくしなければいけないからこれは仕方がないことである。普通のクルマは運動性能などそこそこあればよろしい。

Corvetteの場合は2シーターであるし、はじめにスタイルありきで思いっきりロングノーズのレイアウトだからこういうことが可能なのである。全長が同じ普通車と並べてみればわかるが、Corvetteの運転席は後輪の直前の普通のクルマでいえばリアシートに近いところにある。たとえばブルーバード(全長がほぼ同じ)のリアシートに座って運転するようなものだ。
幅が1.8m以上あるから大きいクルマだと誤解されているようだが、Corvetteの全長は4.5mほどで小型車クラスである。全高はやはり低くて1.2mちょっとしかない。それでも着座位置は昔よりは高くなっているようで、1991年型のC4など運転席に座ると地面に手が届きそうな気がしたものだが、C5やC6ではそこまで低いという感じはしない。STSから乗り換えてもほとんど違和感がない。
ついでにいうと6リッターV8エンジンも驚くほどコンパクトである。理屈では3リッター直4とほぼ同じ長さになるわけだが、2リッターでも3リッターでもエンジンブロック自体の大きさは同じようなものらしく、結局6リッターV8でも2リッター直4とそんなに変わらないということになる(重量は当然大幅に違うが)。
↓ 500psの最高出力を絞り出すスモールブロック最大の7リッターのLS7ユニット。7リッターといってもエンジンブロックは同じで、ボアアップとストロークアップで排気量を上げているだけだから、見た目は6リッターのLS2と同じである。