
STSをお譲りしたI氏より電話がきた。「ボンネットと左右のフェンダーを再塗装してあるみたいですけど・・・」。寝耳に水とはこのことである。私はぶつけたことなどないし、もちろん再塗装した覚えもない。車検に出したトヨタのディーラーのメカニックに指摘されたという。プロが言うのだから間違いはないだろう。とすると塗りなおしたとすれば納車前しかない。アメリカから船に乗って運ばれてくるのだから、中には傷がついて納車前に部分的に再塗装するというのはよく聞く話である。
だが「修復暦なし」で売りに出した以上こちらにも責任の所在を明らかにする義務がある。さっそくYANASEの担当セールスに電話して問いただした。もちろんセールス氏には急にはわかりようがない話である。「塗ってるかもしれませんねえ、こういうのはよくあるんですよねー。白い車ではマレですがブラックだとほぼ100%塗りなおします。黒いとどうしても傷が入ってしまいますから・・・」
私は船旅の途中で船が揺れて不幸にもぶつかったりしたものだけがこういう対象だと思っていたのだが、よくよく聞いてみると日本に来てから法規に合わせて改善する際に入る傷も相当なものらしい。シルバーや白だとよっぽどでないと目立たないから磨きでごまかせるが、アメリカ車に多い艶消しの黒になると塗らないとどうしようもないらしい。だからカッコいいからといい気になって乗り回している暑苦しい目障りな黒い車はほぼ100%傷物なのである。3年もすれば塗りなおしたところが変色してくるだろう。後から塗る部分はいくらいい塗料と腕があっても新車の塗装には適わない。

「これぐらいは修復暦には入りませんよ。現状販売で相手も現車を確認して買ったのだからこっちには責任はないでしょう」というYANASE担当セールス氏の言葉に勇気づけられI氏に恐る恐る電話する。なんせI氏は泣く子も黙る街金の集金係りをなさっているのである。風貌のガラの悪さは天下一品である。キリトリの修羅場などなんどもくぐってこられたに違いない。黙って座っていれば非常にコワイ。もっとも私の前ではいつもニコニコとご機嫌でおしゃべりなのだが。「・・・かくかくしかじかです。」と説明しかけたのだが、なぜか話は、STSをいかに気に入っていて地元の仲間や後輩の垂涎のまとになっているかという自慢話になっていく。昨日の再塗装のことなどどうでもいいような感じである。パラッツオの18インチクロームメッキホイールやアメリカ仕様のビッグバンパーのセンスがたいへんよろしいです、などとお褒めの言葉までいただいたのでこれ幸いと話を終わらせ、名義変更の書類を送るのでよろしくと電話を切った。やれやれである。業者まかせにせずなんでも自分で仕切ってやるからには苦労はつきものであるが、いつもいつもこういう危ない橋を渡っているような気もするなあ(大汗)。